「国民の9割以上がバイリンガル、7割以上がトリリンガル」
「オランダ人は英語ペラペラなのに、オランダ語を学ぶ必要あるの?」
確かにオランダ人やフラマン人(オランダ語圏のベルギーの人々)は英語を流暢に話します。
更に言えばオランダ人はドイツ語、フラマン人はフランス語をある程度話す人が多いです。
結論を言うと、オランダ語を学習し話せる魅力はそれでも確かに存在するのです。その魅力以上に得られる利点も多いというのが一学習者である私が実感していることです。
この記事を書いている私はオランダ語や英語に加えてフランス語(大学時代に専攻+ベルギー・ブリュッセル交換留学)や、独学でドイツ語等を学習しています。それらの経験と比較しつつ、オランダ語を話したり使えることで見えてくる魅力や利点、それから新しい世界について徹底解説していきます!
英語とどこか似ていてとっつきやすい言語
外国語学習をする中で初期の初期で挫折した経験はありませんか?
実は英語を少しでも理解できる人にとって、オランダ語は決して難しくない言語なのです!
文法面や語彙面で英語と似ていると感じる場面が多々あります。
ここで、オランダ語と英語でとりわけ似通っている表現や例文をいくつか取り上げてみました。
オランダ語 | 英語 | 日本語 |
Welkom! | Welcome! | ようこそ。 |
Ik heb een appel. | I have an apple. | 私は林檎を持っています。 |
Hij drinkt bier. | He drinks beer. | 彼はビールを飲みます。 |
Oh mijn god! | Oh my god! | なんてことだ! |
とりわけ似通っているフレーズを抽出したとはいえ、これだけみると方言くらいの差ですよね!
もちろん両言語で異なる部分はあるものの、英語話者にとって(少なくとも最初は)とっつきやすく挫折リスクも低そうです。
「英語に加えてもう1言語話したい!(トリリンガルになりたい!)」という方にもオススメの言語だと思います。
ゲルマン諸語習得への登竜門!☆特にオランダ語⇒ドイツ語はアリ☆
オランダ語を学習しておくと、そのあとでゲルマン諸語と呼ばれるグループに含まれるドイツ語、スウェーデン語、デンマーク語を学ぶ際に学習速度を飛躍的に高めることができます!
いずれの言語の間にも共通点や類似点が多くあります。中でもドイツ語はオランダ語にとって「姉妹語」といっても過言でなく、上記で説明した英語よりも更に似通っています。
それではドイツ語とオランダ語がどこまで似ているか実際の例文で見ていきましょう!
ドイツ語 | オランダ語 | 日本語 |
Guten Morgen. | Goedemorgen. | おはようございます。 |
Ich komme aus Japan. | Ik kom uit Japan. | 私は日本出身です。 |
Sprichst du auch Deutsch? | Spreek je ook Duits? | ドイツ語を話せるの? |
Wir studieren Naturwissenschaften an der Universität. | Wij studeren natuurwetenschappen aan de universiteit. | 私たちは大学で自然科学を学んでいます。 |
上記の文では名詞や動詞のみならず、前置詞等でも共通点や類似点が見られます。
また、日本という単語は独:Japan(ヤーパン)、蘭:Japan(ヤパン)等、アクセントの違いはあれど発音は同じです!(太字を強調して発音するとそれぞれの言語っぽくなります)
私自身こういったオランダ語との共通点及び類似点や、逆にどういった差異があるかを意識し勉強したことで、ほぼ独学にもかかわらず比較的短い期間でゲーテ・ドイツ語試験 B1 は合格できました。この私の経験からもオランダ語ある程度習得⇒他のゲルマン諸語学習を強くお勧めいたします!
ではなぜドイツ語ではなくオランダ語から始めるべきと考えるか。
理由は単純で、オランダ語の方がドイツ語より文法が比較的単純で難しくないからです。
言い換えると私の意見では「オランダ語≓やや簡素化されたドイツ語の方言」です。
「ドイツ語」という言葉を聞いた際、名詞の性(der, die, das)やその格変化(1格~4格)等、全体的に文法が難しそうといったイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか?
実際ドイツ語には名詞の性別は男性・女性・中性の3つあり、定冠詞(英語のthe)は単純計算で12個(3つの性×4つの格変化 ※重複有)もあります。
対するオランダ語の名詞の性別は実質2つ(通性・中性)であり、定冠詞も2つ(de/het)だけです。格変化と呼ばれるものは基本的にありません(B2-C1レベルの学術的文章では稀に特定の語彙の組合せで2格が登場しますが。詳細は別記事で説明予定)
ドイツ語と比べたオランダ語の魅力は文法面での挫折リスクが低いことです。結構これは学習する上で大きなメリットではないでしょうか。
もちろん文法の規則性と戦う準備ができている方や、難しい方から先に学習したい方はドイツ語から始めた後にオランダ語もチャレンジしてみてください。ドイツ語ができればオランダ語は結構簡単に思えるでしょう。
喜んでくれる(+現地の方へのリスペクトを示せる)
オランダ人やベルギー人は、日本人である私たちがオランダ語を話せるとは思っていません。笑
言い換えると日本人に対するオランダ語力の期待値は高くないので、オランダ語を話せることで現地の方にかなり喜んでもらえたり好印象を持ってもらえる可能性が高いのです。
ちなみにフランス語やドイツ語といったメジャーな言語の場合はどうでしょうか。
私個人の経験として、日本国内で開催されるイベント等で出会うフランス人、ドイツ人、スイス人等に彼(女)らの言語で話しかけると喜んでくれる場合は多いです。
ただしフランスやドイツ等、現地では使えて半ば当たり前的な雰囲気が少なからずあると感じる場面がありました。
一方でオランダやベルギーでは私たちがオランダ語を話すと皆さん率直に喜んでくれます!(第三国で偶然出会ってオランダ語で話しかけた場合は尚更喜びます)
私の場合はシンガポール旅行時にホーカー(フードコートのような場所)で列に並んでいた際、後ろでオランダ語らしき言語を話している二人組に “Komen jullie uit Nederland? (オランダ出身ですか?)”と質問したところ意気投合しInstagramを交換しました。なかなか予定が合わずその後は会えていませんが、近々彼らが住んでいるアイントフォーヘンで会う予定です。
また、オランダ語で話しかけることで彼(女)らにリスペクトを示せる点でも意味があります。在住者のみならず旅行者の方もどんどんオランダ語を使ってみましょう。
オランダ人コミュニティに溶け込める
オランダに住むとしたらの場合ですが、
「オランダ生活は英語だけOK!」「オランダ語を使わなくても生活できる」
これは8-9割正しいです。アムステルダムであれば英語だけで日常生活は送れるはずです。
ただし、オランダ人の友達をより多く作りたい場合や、コミュニティに溶け込みながら生活をしたい想いがあるなら話が変わってきます。
オランダ語は話せなくてもルームメイトや勤務先にオランダ人がいれば友達や知り合いには慣れると思います。ただしどうしても英語を話す非オランダ人との関わりの方が強くなるのではという気が個人的にはしています。
また、覚悟すべきは「英語⇒オランダ語」に会話が切り替わる場面です。
非オランダ語話者に対して、1対1の場面であればきっと英語で話してくれるでしょう。
ただしそこにオランダ人が1人、また1人増えていきグループになった場合はどうでしょうか。恐らくは使用言語がオランダ語に切り替えられる場面は出てきます。1人の非オランダ語話者に配慮して英語で話し続けてくれるかはわかりません。そうなったらちょっと寂しいですよね。
皆さんに一つ問いかけます。仲良しのオランダ人グループがオランダ語で楽しそうに話している中で “Please speak in English.”と言う勇気はありますか?私なら場面によっては躊躇します。(笑)
英語だけで生活できるとしても、オランダ語もできれば格段に楽しくなることは間違いありません。
国内外のオランダ語学習仲間と深い関係を築きやすい
このメリットはオランダ語に限らずどのマイナー言語学習でも共通かもしれません。
英語やフランス語、ドイツ語といったメジャーな言語と比べ、オランダ語学習者とはその後もやりとりをしたり、再び会ったりするくらい意気投合することが多いです。
きっとマイナー言語を学ぶ同志としての仲間意識が芽生えるからでしょうか。
他のメジャー言語の場合、連絡先交換やその後もプライベートでやりとりをすることは私の場合それ程多くありません。
例えば、ドイツ語のスピーキング力向上と刺激を受けることを目的にゲーテ・インスティトゥートのタンデムカフェというイベントに行っているのですが、そこではたまにしか連絡先の交換はすることはありません(尤も言語交換が主目的なので本来はこれが正しいです)
一方でオランダ語を学ぶ貴重な仲間とは進んで連絡先を交換するのですが、同じことを思っているのはどうやら私だけではないみたいです。(笑)
例を挙げると、私は国内外で過去3回CNaVT(オランダ語公式検定試験)を受験しているのですが、3回とも一部の受験者と連絡先交換をしています。その中でも特に台湾でB1レベルを受験した際に出会った一人とは、その後もプライベートで台北で数度お会いしており、お陰様でオランダ語を通して台湾にもある程度詳しくなってしまいました(笑)
別の例ですが2025年には東京のオランダ大使館主催のオランダ語 勉強会・交流会にも参加し、その時のメンバーとグループラインを作りました。上級者グループだけにみなさんオランダ語が非常に堪能でLINEでもオランダ語が飛び交っており非常に良い刺激となっています。
よって、オランダ語が非ネイティブの方とオランダ語で話したり情報交換をするのも個人的には非常に有意義だと思います。
私はオランダ語のおかげてメジャー言語だけの学習では得られない経験を多くできました。「いいなあ」「楽しそうだな」と思った方はオランダ語を今日から始めてみましょう!(オランダ語でなくても是非一つはマイナー言語にトライしてみてくださるとうれしいです)
知られざるオランダ語圏の文化・社会を深く理解できる
オランダ、ベルギー、スリナム、旧オランダ領アンティル(アルバ、キュラソー、シント・マールテンなど)について皆さんはどのくらい知っていますか。
オランダだとアムステルダムは超人気観光地ですが、知名度の観点だとロッテルダムやユトレヒトですらグレーゾーンかもしれません。
ベルギーは周辺国に比べるとどうしても知名度は劣ります。チョコレートを除いて。
スリナムという国を知っているのは日本人で100人に1人しかいないのではないでしょうか。
アルバやキュラソーは熱狂的な野球マニア以外は知らないでしょう。(元ヤクルトのバレンティンはキュラソー島出身です)
一部のオランダやベルギーの有名観光地を除き、オランダ語圏の文化や社会はには日本人の間で広くは知られていないと考えています。これらの理解深化や探究をしていく上ではオランダ語の記事や番組、文献を理解する能力が必要になります。(英語だけだと情報ソースは狭まります)
また、聴覚や視覚を経て入ってくるオランダ語の情報にも大小あれど新たな気づきや発見が多くあるでしょう。
上記の理由から知られざるオランダ語圏の文化・社会を深く理解し探求したい方はオランダ語を是非学ぶべきだと思います。
オランダ文学や映画作品を原文で読める

オランダ文学で一番有名なのは「アンネの日記」です。アンネ・フランクはフランクフルト生まれのドイツ系ユダヤ人ですが、ナチス政権下にドイツからオランダへ移住しそこで育っています。第二次世界大戦下の欧州で書かれた作品で最も有名なこの日記が実はオランダ語で書かれていることを大半の日本人は知らないのではないでしょうか。
また、オランダはミッフィーをはじめとした児童文学の宝庫でもあります。ミッフィー(ディック・ブルーナ作)も原作はオランダ語で、ブルーナの出身地であるユトレヒトの中心部では所々でミッフィーを見つけることができます。
それ以外の文学作品や映画等はあまり知名度はありませんが実は隠れた名作や良質な作品も多いです。(別記事にて紹介予定)一方でそれらの作品の大半は日本語はおろか英語でも翻訳されていません。よって、ややディープではあるオランダ語作品の理解は、オランダ語の原文を通して読める方しかできないということです。
有名なオランダ人やベルギー人のインタビューを理解できる
オランダやベルギーは小国ながら特にスポーツや音楽(DJ)の分野で世界的に有名な人物を輩出しています。有名であればあるほど英語でインタビューされることの方がおおいですが、オランダやベルギーの有名人が母国語で受け答えするインタビュー動画では、が彼(女)らの隠れた一面や人柄が垣間見えて興味深いと個人的には考えています。
スポーツだと両国ともにサッカーや自転車競技の強豪国です。サッカーだとオランダ代表のフィルジル・ファン・ダイクやメンフィス・デパイ、ベルギー代表のケヴィン・デ・ブライネやロメル・ルカクあたりは知っている方も多いのではないでしょうか。
上の動画(英語字幕有)はオランダ代表とベルギー代表の2名ずつがオランダ語で雑談している動画です。普段は英語でインタビューで対応している彼らが、母国語で楽しそうに話している動画はなかなか新鮮ですね。(笑)
また、両国ともに世界的なDJを輩出する国です。オランダであればEDM、ベルギーであれば特にテクノ分野で有名なDJが多いです。世界最大規模のEDMイベントであるトゥモローランド(Tomorrowland)はベルギー・アントウェルペン州で開催されます。
DJを例にみると、“Animal” 等でヒットしたEDM界のスーパースターであるマーティン・ギャリックス(Martin Garrix)はオランダ・アムステルフェーン出身です。下記の動画(英語字幕有)はそんな彼がオランダの有名なコメディ番組にてオランダ語でインタビューを受けている動画です。
このように、著名なオランダ人やベルギー人の人柄やよりリアルな部分に興味がある方にもオランダ語学習はオススメです。
競争力の高い多数のオランダ企業と比較的堅調なオランダ経済
ドイツ企業に比べると知名度のある企業の数は少ないかもしれません。
でも実はオランダは下記のような競争力の高い企業を何社も抱えている国なのです。
Philips | ヘルスケア製品・医療関連機器メーカー |
ASML | 半導体露光装置 シェア世界No.1 |
Heineken | シェア世界No.2 (No.1はベルギーのABインベブ) |
KLMオランダ航空 | 世界最古の航空会社 |
ING | オランダの最大手金融機関 |
Booking.com | 世界最大級の宿泊予約サイト |
注目すべきはオランダは九州とほぼ人口が変わらないにもかかわらずこれほどのグローバル企業がある点です。経済も比較的安定していることから、より良いビジネスの機会を求める東ヨーロッパの人々を中心にオランダ語の学習者は近年増加しております。
ちなみにとあるきっかけでお会いしたBooking.com 日本法人を立ち上げた方はもちろんオランダ人でした。オランダ企業で働きたい方、オランダ企業を相手にビジネスをしい方は、オランダ語ができると大きなプラスとなるでしょう。
日系企業の欧州地域統括会社(Regionaal hoofdkantoor)が多数点在
ヨーロッパで日本人が多い都市と聞かれて真っ先に思い浮かぶのは、ロンドンやパリ、或いはデュッセルドルフ(ドイツ)あたりでしょうか。
実はドイツやイギリスに負けないほど、オランダやベルギーにも多くの日系企業があるのです!!
特にオランダのアムステルフェーン(蘭:Amstelveen)、ベルギーだとブリュッセル首都圏にあるオーデルゲム(蘭:Oudergem/仏:Auderghem)はちょっとした日本人街にもなっています。
ここでオランダとベルギー(フランデレン地域並びにブリュッセル)に欧州地域統括本社を構える日系企業の例を見てみましょう。
- オランダ:ヤマハ発動機、クボタ、デンソー、ニコン、シマノ、ヤクルト
- ベルギー:トヨタ自動車、小松製作所、ブリヂストン、ダイキン工業、AGC
誰もが知る超大手企業が両国に地域統括会社を構えています(世界のトヨタまで!)
これらの一例はあくまでも氷山の一角であり、その数は決して少なくありません。
ちなみに、小松製作所に関してはなんと社名がバス停(Vilvoorde Komatsu)や通り(Komatsulaan)の名前にもなっていて、大企業として地元にも根差していることがが容易に想像できます。
イギリスのEU脱退(ブレグジット)以降、地域統括会社の移転先として特にオランダが選ばれるケースが増加しており、オランダ語圏に日系企業が今後も更に増えていく可能性があります。
語学力は道具に過ぎないとはいえ、オランダ語を話せることが現地日系企業への就職や転職、或いはビジネスで協業や起業する上で大きなアドバンテージになる可能性があるのではないでしょうか。
おわりに
オランダ語を学ぶ上記の10選の理由のうち、みなさんに引っかかるものは一つでもありましたでしょうか。
私の主観や経験にかなり基づいている部分もあり、異論は当然尊重いたします。
しかしながら私自身、かなりマイナーであるオランダ語を学習した後悔は一ミリもなく、魅力や利点が多かったと実感しているのでこの記事を書きました。
少しでも共感頂いた方は今日から少しずつオランダ語を始めてみませんか?(あるいはまた引き続き頑張りませんか?)
今回はここまで。
Tot ziens !! (またね!)